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アスワンでの母娘
アスワンダムが造られ、
ナイル川がせきとめられて出来たナセル湖に、
水没の危機にさらされたアブシンベル神殿が
ユネスコの協力で高台に移築された。
そのアブシンベル大神殿のラムセスU世座像の足元に到着した。
1995年(平成5年)2月
第7回夫婦円満旅行の一行26人の添乗だった。
ビデオカメラをまわしながら、
神殿内部に向かって歩き出そうとした時、
カメラに別の日本人観光客の姿が写った。
母娘らしく、23・4歳くらいのジーパンに白シャツ姿の娘さんがこちらにビデオカメラを向けて撮影している。
母親は45歳くらいだろうか。黄色と白色模様のブラウスと
スラックス姿で娘さんに話しかけている。
お互いビデオカメラの対面となったので、
カメラの視界をはずし軽く会釈した。
その後、神殿の見学を終えた一行は、アスワン市内の
ナイル川を見下ろす「カタラクトホテル」に入った。
夕食前のひととき、
ホテルの船着場から2艘のファルーカ(帆船)に分乗、
ナイル川のクルーズジングを楽しんだ。
心地よい川風にほほをなでられながら、
全員がゆったりした気分を味わった。
カタラクトホテルの大食堂は、
19世紀に建てられた当時のままで、天井が高く、
教会のドームを思わせる荘厳名雰囲気を漂わせている。
ほの暗い中、キャンドルが各テーブルに置かれ、
色どりどりの装いの欧米人が楽しげに食事をとっている。
一行の各ご夫婦は8時からの夕食を前にシャワーを浴び、これまたおしゃれして集まった。
席を案内したとき、奥のほうのテーブルで、
見覚えのある日本人が私の方を向いてニッコリした。
先ほどの母娘だった。
キャンドル越しに雰囲気は、
アガサクリスティーの小説「ナイル殺人事件」の
映画のワンシーンのようだった
翌朝、ナイル川を見下ろすロビー横のテラスで
ガイドと打ち合わせをしていた時、
あの母娘2人が来られて、
「お早うございます」とあいさつを交わした。
言葉の不自由もなく、欧米人並みに
個人で外国旅行を楽しむ時代になった、
と感じ旅行業者として誇らしく思えた。
スマートなその立ち居振る舞いに目が止まったのは
私だけではなかった。
「何となく気になる日本人がいた」
と後でメンバーに話したところ、
「素敵なお2人は私たちも気付いていましたよ」
と奥様方が口々に語ってくれた。
どこの、誰ともお互いに名乗ったわけではないが、
印象鮮やかなお2人だった。
異国情緒たっぷりのエジプト旅行は、今始まったばかりだ。
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