|
 |
ワインのお返し
あるデパートのお客様をご案内して、ヨーロッパへ添乗した時のこと。団員は男性2人と女性20人に、私の計23人。
スペイン・南仏と回って最終目的地パリの
『アンバサダーホテル』にチェックインし、
夕食は当時三ツ星レストランとして大変有名だった
『マキシムドパリ』。
デパート側から
「最終日は豪華なレストランでの晩餐会にしてほしい」
とコース作成時に要望され、組み込んだもの。
さて出陣、とホテルのロビーに集合した団員を見て、周りの外国人客が一斉に
「ピュー」と口笛を吹くほどの華やかさ。
もちろん今夜は従者の男性3人もダークスーツのいでたちである。
1977年(昭和52年)の9月とはいえ、パリに着いた日はコートが欲しいぐらいの肌寒い年だった。
しかし、出発からこの夜のために衣装を新調してきた団員は頬を紅潮させ、コンコルド広場に近いこのレストランに入った。
かの有名な富豪オナシスが常連と聞いていたので、添乗員としては今だかつて無い大そうなチップをボーイに支払った。
ところが、
案内された席は2階の調理場に近い、生演奏が聞きにくい意外な場所だった。
見渡すと満席状態なので、仕方なくひと通りメニューの説明をした後、ワインのテイスティングをすることになった。
ワインはレストラン推薦のボルドーの赤ワイン。
注文したのはよかったが、ひと口含み飲み干した際に小首を傾げてしまった。
なぜだか、自分でも理由は分からないし、ワイン通でもない私がケチをつけられるはずもない。
すると控えていたボーイがすっ飛んできて、私のグラスはもとより、団員のグラスを引き上げた。
そして、ソムリエが、衝立の影で、今開けたボトルのワインをグラスに注ぎ、ひと口・ふた口含んでいる様子。
しばらくして、今度はソムリエが小首を傾げた。
「こんなおいしいワインなのに、おかしいなぁ。」
当時は、日本人の食事のマナーは団体になると騒がしい、というのが残念ながらの定評だった。
しかし海外旅行に出かける人が増え、
マナーも向上していると感じていた矢先だったので、
通りいっぺんの扱いに少々抵抗したのかもしれない。
料理はおいしく、メーンディッシュはもとより、アイスクリームの上に取れたての木いちごをのせたデザートは絶品。
帰国してからも団員の口の端に上るほど。
残念ながら、近年このレストランも栄枯盛衰の波に洗われ、あまり名前が聞かれなくなったが、どこのホテルやレストランでも、日本人客は上等席の評価を受けるようになってきた。
|
 |
|
|
 |
|