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沈まぬ太陽
ノルウェーのオスロから空路約2時間。
北緯70度の「北極圏の首都」といわれるトロムソに入ったのは、1990年(平成2年)の6月だった。
夫婦円満旅行の第2回。
沈まぬ太陽(ミッドナイト・サン)を見るため、
これまで多くの北極圏探検隊の出発地となったトロムソを選んだ。
極地の空に向かって立つトロムスダール教会、
そこからの荒々しいフィヨルドの景観を満喫した後ホテルに入った。
夕食後、真夜中にバスでトロムソ郊外にあるストールスティネン山に向かった。
街並みは、白々と夜が明けようとしているような薄明かり。
家々は戸締りをし人々は眠りについていて人通りもない。
6月とはいえケーブルカーで登った山頂は、身を切るような寒さ。防寒具に包まって、細かい石ころを踏みながら、展望台に向かった。
我々のほかは誰もいない。
はるか水平線の上で太陽は夕日となり黄昏の雰囲気だった。
ところが、5分経っても、10分経っても同じ位置で動かない。 |
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しばらくすると、だんだんキラキラと輝きが増して、朝日となって昇ってきた。
今まで、体験したことのない不思議な光景に、
みんな息をのみ、感激していた。
そして、それぞれが、写真に収めるのに一生懸命になっていたそのときだった。
「なんや、太陽が沈まんだけやがいや。」
団員の1人がつぶやいた。
その言葉にまわりは一瞬沈黙。
その後、静けさを破るように笑い声がこだました。
今回、初めてある老夫婦が娘夫婦と一緒に参加された。
デンマークのコペンハーゲンで80回目の誕生日を迎えられたので、夕食時にバラの花とケーキをホテルで用意してもらい、全員でお祝いした。
最初にお目にかかった時から、
「大変お元気で、美しい方だなぁ。」
と思っていたのですが、食事が進み、デザートになったころ、一片の紙切れが私にまわってきた。
「賜りし バラの花見て 旅のいえ」嘉子―――
と美しい文字でしたためてあり、お返しの俳句だった。
添乗員は、団体をまとめてリードしてく上では、
常に公平な態度でお客様に接することが大切。
しかし、このときばかりは、そんなことはどこかに吹き飛んでしまい、ほのかに心がときめいた。
そして、翌日は有名な「チボリ公園」をウキウキとお客様気分でまわったことだった。
コペンハーゲンからの帰路
「いつの日か、今度は北極光(オーロラ)を見に、冬のトロムソをもう一度訪ねたい」と誰からともなく、話題になった。
白夜のトロムソの印象は深くて鮮やかだった。
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